No.001 大橋 淳史(愛媛大学教育学部准教授・ジュニアドクター育成塾愛媛大学事務局長)

ジュニアドクター育成塾愛媛大学事務局長の大橋淳史先生は、愛媛大学教育学部の准教授でもあります。
研究職と言って真っ先に思いつく「大学の先生」には、どのようにしたらなれるのでしょうか。
学生に授業をする以外に、どんなことをしているのでしょうか。
「大学の先生」の目標は?
理想の研究職と思える「大学の先生」について、大橋先生にお話しいただきました。

【目次】
1 子どもころはどんなことに興味があった?
2 子どもの時代の将来の夢は?
3 なぜこの仕事をするようになった?
4 小中高大時代にがんばったことは?
5 今の仕事を選んだ理由は?
6 今の仕事の分野は?
7 実際にされている仕事内容は?
8 仕事をしていて一番嬉しい瞬間は?
9 仕事をしていて大変なことは?
10 同じ仕事を目指している子どもたちに,いま頑張ってほしいことは?

1 子どもころはどんなことに興味があった?

―子どもの頃に関心があったことについて教えてください。
 私は子どもの頃から化学というか,薬品を混ぜ合わせたりするのが好きでしたね。シャンプーとリンスを混ぜるとどうなるかとか,そこに石鹸水を入れるとどうなるかとか,そんなことをやっていました。また,昆虫や動物が好きで,カナブンやショウリョウバッタ,カマキリ,ヤモリなどを捕まえては飼っていましたよ。
―いわゆる科学系以外ではどうでしたか。
 もう少し大きくなると,読書が趣味になりました。コナン・ドイルのホームズを読んで観察や分析,人間の心理にも興味が出て,一般向けの心理学の本を読んだりもしましたね。
―心理学系の本を読んで,そちらの分野に進もうとは思いませんでしたか。
 当時,もう少し専門向けの本を読んでいたら,化学ではなく心理関係を目指したかもしれません。私が読んでいた本は,ハウツー本のような一般向けの本で,そうした分野のおもしろさは,ほとんど書いていなかったので「へえ」くらいで終わってしまいましたね。

2 子どもの時代の将来の夢は?

―子ども時代の将来の夢は,やはり科学者だったと。
 混沌とした現象を分析して新たな発見をすること,それを自由な発想で行うことが将来の夢でしたので,研究が好きなだけできる仕事をしたいと感じていました。そういう仕事は科学者だと聞いたので,科学者を目指したのです。

3 なぜこの仕事をするようになった?

―子ども時代の夢と現在のご職業はかなり離れているように思いますが,この仕事をされるキッカケなどはあったのでしょうか。
 なかなか難しい質問ですね(笑)。博士号を取るまでは,なんとなく「博士号を取れば,すべてが叶う」ように思っていたので,あまり悩んだことはありませんでした。しかし,博士号を取り,いよいよ「自分の研究」をすることになったとき,どんな研究が「オリジナル」な研究なのだろうと,ふと考えたのです。
―そこから現在の仕事(教育学部)に興味が出たのでしょうか。
 そうです。自分の研究がたくさんある私は,科学教育でこそ「オジリナル」な研究ができるのではないかと考えて,ここ(愛媛大学)に来たのです。と言っても,学校教育のことは何も知らなかったので,教育について一から勉強し直し,現在は,科学者の考え方を学べる教育方法を研究しています。

4 小中高大時代にがんばったことは?

―小中高大の時代にがんばったことについて教えてください。
 がんばったと言えるかどうかはわかりませんが,とくに小学校時代は川でザリガニを取ったり,原っぱでバッタやカマキリ,トカゲを捕まえたり,木登りをしたり,ヘビイチゴや桑の実を食べたりと自然の中で育ちました。
―ご出身は東京ですよね。
 東京も意外と自然はあるんですよ。まあ,いま同じことをしようとしても危ないと止められてしまうかもしれません。
―その他はどうでしょうか。
 うーん。残念ながら科学部のようなものはなかったので,中高はあまり科学を熱心にやっていた記憶はありません。
―大学に入ると,やはり研究ですね。
 とくに実験系は研究室にいないと何もできないので,実験はがんばりましたね。

5 今の仕事を選んだ理由は?

―今の仕事を選んだ理由をお聞きしたいのですが,研究者という仕事をする場合には,さきほどお話に出た,研究のオリジナリティが重要なのでしょうか。
 オリジナリティに悩んだのは,私の研究経歴がちょっと変わっていたからかもしれません。日本では,多くの人が学部,修士,博士を同じ研究分野で活躍していきます。しかし,私は学部,修士,博士を異なる大学,異なる研究分野で研究していました。そのため,私にとって「自分の研究」と呼べるものはたくさんあったのです。選択肢が多いとかえって決められないことがあるという心理的効果があるそうですが,どんな分野なら私の力を活かせるだろうと悩みました。
―そこで教育を目指したのですか。
 当時はまだ理系分野のどこかで勝負しようかと考えていました。ちょうどそんなときに,当時の研究室のボス(教授)から「きみは教育の仕事に興味はあるかい」と言われたのです。具体的には,慶應義塾大学で文系学生に自然科学教育を行う助教の仕事でした。研究者からは大きな変更でしたので悩みましたが,助教として雇用されますし「合わなければ科学研究に戻ればいい」と考えて仕事を引き受けました。
―文系学生を教える仕事はどうでしたか。
 おおよそ10年ほど科学が得意な人ばかりのなかにいましたので,文学部,経済学部,法学部,商学部の学生さんに化学実験を教える仕事は新鮮でした。化学はまったく苦手だったり,じつは得意だったり,いろいろな学生さんがいましたが,実験を指導していると「座学ではわからなかったことが実験を通して理解ができた」という学生さんが多く,やりがいがありましたね。そんなとき,経済学部の学生から「ほんとは理学部を目指していたんだけど『科学にはもう新しい発見はない』から理学部を辞めて経済学部に進んだ」と言われて,とても驚きました。最先端の科学でもこの世界のことはほとんどわかっていません。だからこそ,科学者は研究しているのに,学校では「科学はすべての謎を解き明かしている」ように教えているのだろうかと。そこで,教育の仕事に興味が出始めたのが,今の仕事を選んだキッカケです。

6 今の仕事の分野は?

―ふだんはどんな仕事をされているのですか。
 科学について,教える,学ぶ方法を考える,興味を抱かせる,の3つの仕事をしています。教える仕事は,理科教員を志望する学生に化学の教授法や実験の安全教育などを指導しています。学ぶ方法を考える仕事は,研究として教材を開発する仕事です。最後の興味を抱かせる仕事は子どもや一般を対象にした体験授業などです。

学ぶ方法を考える仕事
論文(JOURNAL OF CHEMICAL EDUCATION)
※全文英文です。
開発した教材(充填型結晶模型キット

7 実際にされている仕事内容は?

―具体的な仕事の内容を伺いたいのですが,教材の開発はどんなお仕事なのでしょうか。
 学校で利用できる科学の本質を理解できる教材を開発しています。たとえば,金属結晶構造は,センタ―試験でもよく出題される分野ですが,相変わらず高校生の弱点です。そこで,これを解消する簡単なモデル教材を開発しました。
―その研究は,どこかで見ることができますか。
 アメリカ化学会のChemical Education誌に論文が掲載されています。また,教材としても市販されていますよ。
―実用できる教材を開発されているのですね。もうひとつの興味を抱かせるお仕事はどんなお仕事なのでしょうか。
 ひとつは次代の研究者を育成する仕事,もうひとつは子どもたちに体験授業をする仕事です。次代の研究者を育成する仕事は,ジュニアドクタ―育成塾事業がそれにあたります。この仕事を通して,新しい能力評価法の開発などもしています。体験授業では,藍染めや研究室で開発した教材などを使って,子どもたちに科学の楽しさを伝えています。

8 仕事をしていて一番嬉しい瞬間は?

―仕事で一番嬉しい瞬間は何ですか。
 研究者ですので,研究成果が出たときでしょうか。予想もしていなかった新しい結果が出たとき,論文が載ったとき,あとは予算を獲得できたときが嬉しいです。
―他のものは予想ができますが,予算を獲得したというのは。
 研究のためには多くのお金が必要です。そのための予算は限られていますので,競争して良い提案にのみ予算が付きます。研究者は,この競争する予算がないと研究ができないのです。予算が獲得できたということは研究ができるということですので,とても嬉しいです。

9 仕事をしていて大変なことは?

―なるほど。研究するのも大変なのですね。では,お仕事で大変なことはありますか。
 まあ,いろいろありますが,愚痴を言っても始まらないので(笑)。そうですね。いままでで一番大変だったのは,研究がまったく上手く行かなかった学生時代です。朝から晩まで実験し続けても,何年も何のデ―タもでないのは,かなり大変でした。まわりは当たり前のように論文が出るのに,自分だけ論文にするデ―タもない。これは辛かったです。しかし,あそこで「どうすれば良いのか」を何年も考え続けたことが,いま力になっていると感じています。大変なことも乗り切れば力になるものです。ものによりますが(笑)。

10 同じ仕事を目指している子どもたちに,いま頑張ってほしいことは?

―先生と同じように研究者を目指す子どもたちに,いま頑張ってほしいことは何でしょうか。
 『手を動かして考える』ことです。研究はデ―タがすべてです。デ―タは裏切りません。しかし,デ―タがなければ何も言えません。考えることは重要ですが,まず手を動かしてデ―タを取らなければなりません。
 あなたは学校や家ではできない『難しい』研究をやりたいと考えているかもしれません。しかし,本物の研究者は『難しい』研究をしたいわけではありません。研究者は,自分が見つけた『ナゾ』を解明したいだけです。その『ナゾ』に気づき,解明するために専門的な知識や経験が必要なだけなのです。あなたの思う『高度な』研究を求めるのではなく,『いま』あなたが理解でき,手を動かして実行できることをすることが大事です。それを頑張って欲しいと思います。
―ありがとうございました。

いかがでしたか?
理想の研究職「大学の先生」は、みなさんが思い描く姿と同じでしたか?
それとも思っていた姿とは違うと感じたでしょうか。

今後もジュニアドクター育成塾愛媛大学に関わる「科学プロ」たちに、お話を聞いていきます。
みなさんの毎日は将来のみなさんにつながっています。
みなさんが学んでいる科学の力をいかせる仕事は、とても多いと感じていただければと思います。

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